【体験ベース】4stMX車両の始動不良直し方|セルモーター回転直後、金属音でエンストする症状の原因と改善

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セルは勢いよく回る。初爆もする。
なのにエンジンがアイドリングには至らず、『カキン!★』と金属音の嫌な音――。
最後はセルモーターに引っ張られるようにエンスト。
「これ、絶対ヤバいやつだ…」と直感的に違和感を感じる症状。

最初は多くの人が疑う“シリンダヘッドまわりの不具合”だと思っていましたが、原因は違いました。
実際には ワンウェイクラッチが掴みっぱなしになり、クラッチがリリースされず連れ回っている という症状。
このタイプの不具合は情報がほとんどなく、ネットを探しても見つからないため、原因にたどり着くまでかなり時間がかかりました。

そこで同じ状況で困っている人のために、今回
「症状 → 原因 → 改善方法 → 作業の注意点 → ビフォーアフター」
をすべて体験ベースでまとめました。

交換一択ではなく、 分解・点検・部品交換・オイル選定 など、コストを抑えつつ確実に改善できる方法も紹介します。
同じような「セルは回るのに掛からない」「金属音がしてエンストする」で悩んでいる人に届きますように。


症状の特徴|セルは回る&初爆するのに異音と共にすぐエンストする

典型的な症状チェックリスト

  • セルは勢いよく回る
  • 初爆はするが始動しない
  • 金属音/カキッ/巻き込むような音がする
  • すぐエンストする
  • 暖機後の方が更に症状が悪くなる

👉関連記事 セルも廻らない始動困難の場合の対応全般バイクのエンジンがかからないときのチェックポイント|原因別対処法まとめ

症状が空回りと違うポイント

  • 空回りは「スカッ」とノイズが少ない
  • クランキングはしているがいきなり止まる感じ
  • 切れ不良は「噛んだまま引きずる金属音」
  • セルモーターの負荷が大く感じる

原因|ワンウェイクラッチの“掴みっぱなし”による連れ回り

結論です。原因はワンウェイクラッチ

赤い矢印のクランク軸に共締めされているのがスターターワンウェイクラッチ。写真は私の2019CRF450R。

バイクのセルモーター始動タイプのエンジンにはワンウェイクラッチというものが入っています。セルモーターからの回転をエンジンに伝え、エンジンが始動したらその回転を切り離すクラッチの役目です。原チャリも同様の簡素なモノが入っています。このクラッチの経年劣化、摩耗が基本的な原因です。クランキングしたあと、初爆しアイドリングしようとした際にクラッチが切れてくれないので、モーターが連れ廻りそのフリクション(抵抗)でエンストしてしまいます。エンジンがエンストするときってだいたいクランク半回転ほど逆回転します。この時に切れかかっていたワンウエイクラッチが衝撃音と共に再度かみ合わされセルモーターが逆回りします。異音はこの2つの音です。CRF450Rクラスの単気筒ビッグボアになると一発一発のトルク変動が大きく、クランク逆回転時の負のトルクもデカいのです。ワンウィも壊れますよね。昔、XR600などに乘った事がある方はご存じかもしれませんが、キック始動に失敗すると『ケッチン』というキックペダルに逆回転荷重が伝わってきました。あれです。セル付き車両のワンウェイクラッチの寿命を早める原因はあの『ケッチン』に類似した挙動です。

特徴的なのは走行中のエンスト再始動が困難。『カキッ』と金属音

熱間時の方が悪化する理由ですが、このワンウェイクラッチまわりはとても窮屈な4重構造です。クランク軸にスプラインでアウターが勘合され、その上にニードルBRG、更にその上にスターターギヤCOMPが乗っかり、その中でワンウェイクラッチが摺動/機能しています。これら各部品が熱間時に膨張すると各軸受けクリアランスが狭くなる部分と広くなる部分が発生します。結果、この軸受け周りが倒れ振れ廻りやすくなります。結果ワンウエイクラッチが安定してリリースされにくくなるのです。軽量化の為、軸受け幅は狭く薄く軽く設計していますので、劣化/摩耗するとこの挙動が発生しやすくなります。ある程度性能と引き換えにした耐久性といったところです。

考えられる主な劣化要因

  • ワンウェイカムの寿命的な摩耗
  • スプリングの弱り
  • インナーレースの摩耗
  • アウターレースの摩耗
  • ニードルBRGの摩耗による軸倒れ
  • オイル劣化/汚れによるワンウェイカムまわりの摩耗促進
  • クランキング負荷が高い状態でのセル使用によりワンウェイ負荷増(ギヤが入ったまま)

⇩私のCRF450Rワンウェイクラッチ側面 摺動面に平坦摩耗あり。クラッチ&リリース基本機能が怪しい。

↓ワンウェイクラッチアウター。ニードルBRG転導面、クラッチ摺動面の摩耗が少し発生

↓スターターギヤcompのインナーレース。『ケッチン』等のクラッチ大荷重による叩かれ痕。見るからにワンウェイクラッチカムが食い付きやすそうな面になってます。

引用元;NSKワーナー

悪化させやすい使用条件

  • 熱間始動が多い
  • エンジンオイル交換サイクルが長い
  • 高粘度オイルを使っている
  • ギヤが入ったままクラッチレバーを切って始動することが多い

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整備・改善方法|交換だけが正解じゃない

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分解前にできるチェック

  • アイドリング回転数は適切か?
  • バルブクリアランス(タぺクリ)は規定値か?4st乗りMUSTアイテムシックネスゲージAmazon.co.jp
  • オイル交換頻度は適切か?ばらす前に一度OIL交換してみましょう。お勧めの標準OILです。Amazon.co.jp
  • バッテリー電圧は適切か?(クランキングスピードに最も影響する)リチウムイオンバッテリーにも使えるリーズナブルなバッテリー充電器お勧め。私も使ってます。Amazon.co.jp
  • カムチェーンテンショナーの反力は適正か?ねじ式のオートテンショナーは時にどんどん飛びだしてテンションがかかってしまっている場合があります。車載状態で一度巻き戻して再度張り直しを行いテンショナー過荷重によるエンジンフリクションが発生していないか確認をお勧めします。車載で行うときにはこの短くて小さい先端のマイナスドライバーがMUSTです。Amazon.co.jp

矢印がカムチェーンテンショナーです。先端のM6ねじを取り外し、中のマイナスねじを巻き戻すとテンションを一旦抜くことが出来ます。その後はずして自然にバネとねじのチカラでかかるテンションが適切なテンショナー荷重です。写真は私が昔乗っていた2011CRF250R。テンショナーは現行モデル等、250、450同様です。

コストの安い改善策(状態次第で有効)

  • ワンウエイクラッチまわりの全バラ洗浄、再組立て。
  • ワンウエイクラッチのみ交換。
  • インナーレース/アウターレースはスコッチブライト研磨(軽度摩耗時のみ)
  • アウターレースの給油穴一部拡大(改修)

分解・交換時の注意点

  • ワンウエイクラッチカムの向き違いに要注意
  • アウターレース、インナーレース、ニードルBRGも同時交換がBEST。

実際の作業手順

インターナルサークリップを外す。

ワンウエイクラッチはアウターハウジングごと平たい机に『パン!』と正確に叩きつけるとスラスト方向にずれて来る。ハウジングの外面とツライチまでずれたら、残りは手で取り外す。

ワンウエイクラッチばらしに必要な重要工具

  • サークリッププライヤー:ワンウェイ取り外しにMUSTアイテム。
  • インパクトレンチ:プライマリドライブギヤ締結とクラッチアウター締結を緩めるのにあればラクです。(トルクレンチの性能が良く、発生するトルクがだいた分かっているならばDIYレベルなら締結も出来ます)
  • トルクレンチ:プライマリドライブギヤ締結とクラッチアウター締結でトルク管理が必要。お勧めのトルクレンチ👉Amazon.co.jp

作業の流れ

  1. Rカバー外し
  2. クラッチ取り外し
  3. ワンウェイクラッチとプライマリドライブギヤを締結しているセンターナット緩め
  4. ワンウエイクラッチASSY取り外し
  5. ワンウエイクラッチアウター内のインターナルサークリップ取り外し
  6. ワンウエイクラッチ取り外し
  7. 洗浄、ワンウエイカム、接触するインナー/アウターレース偏摩耗など外観確認
  8. 必要な部品を交換
  9. 再組立て(ワンウエイカム回転方向注意!)
  10. 始動性確認。特に熱間時始動性

作業でつまずきやすいポイント

ワンウエイを抑えているサークリップが外れない

ENG内でも1,2を争うテンションの強いサークリップです。良い工具で作業をしてください。お勧めのサークリッププライヤー  Amazon.co.jp

ワンウエイがアウターハウジングから抜けない

机に向ってフランジ面を叩きつけるのが現実的にSTDな方法です。

ワンウエイカムの正しい形が分からないから、偏摩耗も判断できない

2年の乗ったなら新品買って新旧眺めて頂くのが良いです。

プライマリドライブギヤとバランサーギヤの合わせ位置が分からない

バランサー軸とのギヤかみ合わせは合わせマークがあります。またクランク軸、バランサー軸はスプラインに絶対間違わないような構造になっています。安心して合わせマークで組んてください。大丈夫です。


改善効果|ビフォーアフター

ワンウエイクラッチの引きずり、誤作動が無くなるので

  • 冷間・熱間始動性ともに改善する
  • セルを回した瞬間の金属音が消失する
  • 始動後のエンストがなくなる
  • セルボタンを押して始動、すぐに安定的なアイドルを打つようになる。


おすすめのメンテサイクル・予防策

  • レース未使用でも2シーズンに1回はワンウエイクラッチまわりを全交換する
  • 走行中エンストしたら、始動時は必ずニュートラルにいれてから再始動する
  • アイドル回転数の調整を正しく行う
  • 極低速/低開度域のFIセッテイングを規定値以内に収める

ワンウエイカムの偏摩耗を引き起こす要因として、ケッチン(始動不足によるクランクの逆回転)があります。初爆後次のサイクルで失火した場合、クランクは少し逆回転します。その際にセルモーターはまだ正回転しようとしますので、その正/負の回転のぶつかり合いのポイントがセル始動の場合、ワンウエイカムの摺動部に集中します。叩かれ摩耗が起きます。この挙動を最大限小さくそしてその頻度を少なくせねばなりません。最も考えられるのは走行中のエンストで焦ってギヤが入ったままクラッチを切ってセルを回し再始動を試みるときです。ギヤが入ってクラッチを切った状態では、フリクションが高いので、セルモーターを回しても勢いよく廻っていないことが多いです。うまくクランキングし初爆から勢いよく廻れば良いですが、なかなか安定して着火しない事がありますよね。セルを連発して失火と着火を繰り返すモード。これを避ける事がワンウエイクラッチまわりの偏摩耗抑制には効果があると思います。


まとめ|症状は放置NG、早期対応が一番安い

  • ワンウエイクラッチ部の定期的な全バラ洗浄は効果が高い。溜まったスラッジの除去。
  • エンジン始動性そのものをよくするための通常メンテが大切。バルブまわり。プラグ。
  • 適切なオイル交換はワンウエイクラッチの機能不全を抑制する。やっぱ交換頻度は大切。

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今回はこの辺で。またね。

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