セルは勢いよく回る。初爆もする。
なのにエンジンがアイドリングには至らず、『カキン!★』と金属音の嫌な音――。
最後はセルモーターに引っ張られるようにエンスト。
「これ、絶対ヤバいやつだ…」と直感的に違和感を感じる症状。
最初は多くの人が疑う“シリンダヘッドまわりの不具合”だと思っていましたが、原因は違いました。
実際には ワンウェイクラッチが掴みっぱなしになり、クラッチがリリースされず連れ回っている という症状。
このタイプの不具合は情報がほとんどなく、ネットを探しても見つからないため、原因にたどり着くまでかなり時間がかかりました。
そこで同じ状況で困っている人のために、今回
「症状 → 原因 → 改善方法 → 作業の注意点 → ビフォーアフター」
をすべて体験ベースでまとめました。
交換一択ではなく、 分解・点検・部品交換・オイル選定 など、コストを抑えつつ確実に改善できる方法も紹介します。
同じような「セルは回るのに掛からない」「金属音がしてエンストする」で悩んでいる人に届きますように。
症状の特徴|セルは回る&初爆するのに異音と共にすぐエンストする
典型的な症状チェックリスト
- セルは勢いよく回る
- 初爆はするが始動しない
- 金属音/カキッ/巻き込むような音がする
- すぐエンストする
- 暖機後の方が更に症状が悪くなる
症状が空回りと違うポイント
- 空回りは「スカッ」とノイズが少ない
- クランキングはしているがいきなり止まる感じ
- 切れ不良は「噛んだまま引きずる金属音」
- セルモーターの負荷が大く感じる
原因|ワンウェイクラッチの“掴みっぱなし”による連れ回り
考えられる主な劣化要因
- ワンウェイカムの寿命的な摩耗
- スプリングの弱り
- インナーレースの摩耗
- アウターレースの摩耗
- ニードルBRGの摩耗による軸倒れ
- オイル劣化/汚れによるワンウェイカムまわりの摩耗促進
- クランキング負荷が高い状態でのセル使用によりワンウェイ負荷増(ギヤが入ったまま)
⇩私のCRF450Rワンウェイクラッチ側面 摩耗あり

↓ワンウェイクラッチアウター構造上給油環境悪い

↓スターターギヤcompのインナーレース摩耗あり

引用元;NSKワーナー
悪化させやすい使用条件
- 熱間始動が多い
- エンジンオイル交換サイクルが長い
- 高粘度オイルを使っている
- ギヤが入ったままクラッチレバーを切って始動することが多い
整備・改善方法|交換だけが正解じゃない
分解前にできるチェック
- ギヤはニュートラルに入るか?
- アイドリング回転数は適切か?
- 冷間時の方が始動性が良いか?
- バルブクリアランス(タぺクリ)は規定値か?
- オイル交換頻度は適切か?
- バッテリー電圧は適切か?(クランキングスピード)
コストの安い改善策(状態次第で有効)
- ワンウエイクラッチまわりの全バラ洗浄、再組立て。
- ワンウエイクラッチのみ交換。
- インナーレース/アウターレースはスコッチブライト研磨(軽度摩耗時のみ)
- アウターレースの給油穴一部拡大(改修)
分解・交換時の注意点
- ワンウエイクラッチカムの向き違いに要注意
- アウターレース、インナーレース、ニードルBRGも同時交換がBEST。
実際の作業手順
インターナルサークリップを外す。
ワンウエイクラッチはアウターハウジングごと平たい机に『パン!』と正確に叩きつけるとスラスト方向にずれて来る。ハウジングの外面とツライチまでずれたら、残りは手で取り外す。
必要工具と部品
→ サークリッププライヤー
作業の流れ
- Rカバー外し
- クラッチ取り外し
- ワンウェイクラッチとプライマリドライブギヤを締結しているセンターナット緩め
- ワンウエイクラッチASSY取り外し
- ワンウエイクラッチアウター内のインターナルサークリップ取り外し
- ワンウエイクラッチ取り外し
- 洗浄、ワンウエイカム、接触するインナー/アウターレース偏摩耗など外観確認
- 必要な部品を交換
- 再組立て(ワンウエイカム回転方向注意!)
- 始動性確認。特に熱間時始動性
作業でつまずきやすいポイント
- ワンウエイが抜けない
- ワンウエイカムの正しい形が分からないから、偏摩耗も判断できない
- プライマリドライブギヤとバランサーギヤの合わせ位置が分からない
改善効果|ビフォーアフター
- 始動性の改善
- 金属音の消失
- 始動後のエンストがなくなる
- セル連れ回りがなくなる
→セルボタンを押して始動、すぐに安定的なアイドルを打つようになる。
おすすめのメンテサイクル・予防策
- レース未使用でも2シーズンに1回はワンウエイクラッチまわりを全交換する
- 走行中エンストしたら、始動時は必ずニュートラルにいれてから再始動する
- アイドル回転数の調整を正しく行う
- 極低速/低開度域のFIセッテイングを規定値以内に収める
ワンウエイカムの偏摩耗を引き起こす要因として、ケッチン(始動不足によるクランクの逆回転)があります。初爆後次のサイクルで失火した場合、クランクは少し逆回転します。その際にセルモーターはまだ正回転しようとしますので、その正/負の回転のぶつかり合いのポイントがセル始動の場合、ワンウエイカムの摺動部に集中します。叩かれ摩耗が起きます。この挙動を最大限小さくそしてその頻度を少なくせねばなりません。最も考えられるのは走行中のエンストで焦ってギヤが入ったままクラッチを切ってセルを回し再始動を試みるときです。ギヤが入ってクラッチを切った状態では、フリクションが高いので、セルモーターを回しても勢いよく廻っていないことが多いです。うまくクランキングし初爆から勢いよく廻れば良いですが、なかなか安定して着火しない事がありますよね。セルを連発して失火と着火を繰り返すモード。これを避ける事がワンウエイクラッチまわりの偏摩耗抑制には効果があると思います。
まとめ|症状は放置NG、早期対応が一番安い
- ワンウエイクラッチ部の定期的な全バラ洗浄は効果が高い
- エンジン始動性そのものをよくするための通常メンテが大切
- 適切なオイル交換はワンウエイクラッチの機能不全を抑制する
今回はこの辺で。またね。



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